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Posted by TI-DA at

2010年12月21日

Eminem "Love The Way You Lie (Feat. Rihanna)"

『Recovery』からのセカンド・シングルで、今年名を上げたAlex da Kidのプロデュース。

タイトルからして既に変わっているが、中身はとてつもなく凄かった。

破滅的、DV的な愛に絶望しつつも依存してしまう恋人同士の感情を双方の立場から吐露するというポップ・ソングにあるまじきテーマ。
ある意味売り易い(話題作り)曲だが、この曲にはそう言ったエンターテイメント性をも超越した凄みがある。

Eminemのフロウは『The Marshall Mathers LP』時の様な狂気を感じさせ、そのパートナーを務めたのがRihannaって・・・よく引き受けたもんだ(知らない人の為に補足すると、Rihannaは元ボーイフレンドのChris BrownにDVを受け一度ヨリを戻し、その後別れに踏み切った)。

この曲は歌詞を知って曲への理解を深める事でこそ面白さが分かる類の曲だと思う。
Rihannaはサビだけの登場だけれど、Rihannaのアルバムには女性側の視点メインのパート2が収録されており、そのヴァージョンがオリジナル以上に凄い。
逃げ出したい気持ちがある一方で「(あなたが)正気を失っている時でさえ私のヒーロー」「あなたに傷付けられるのが好きだから・・・」と、かなりギリギリの心境が歌われる。
トラックは基本的には同じだが、オリジナルよりも更に派手になり、特にサビでの音の厚みが凄い。

更に凄いのは後半のここぞというタイミングで登場するEminemの新しいパートで、鬼気迫るという言葉が薄っぺらく感じる程に狂人一歩手前の切迫感や狂気を感じさせる。
怒り、苦しみ、痛み、苦悩、孤独を飛び越え憎悪すら感じさせ、そのスキルとフロウに圧倒されるばかり。
このフロウはこれまでのEminemのキャリアの中でもハイライトの一つだと思う。
パート2を聴いてしまうとオリジナルはデモかと思う程薄い。

一方のRihannaはいつも通り淡々と歌っているものの妙な説得力を感じさせ、静と動、情熱と冷静といった対比を見るようにお互いをより際立たせている。
青い炎と真っ赤な炎が距離を取りつつもどこかで交じり合い、大きく燃えたり元に戻ったりといった事を繰り返しているイメージだ。妙な例えだが・・・。

エンターテイメントとアーティスティックは両立し得る事を証明した稀有な一曲。
  


Posted by dana319 at 02:57Comments(0)Hip Hop

2010年12月09日

Mariah Carey "Outside"

通算5枚目『Butterfly』収録曲。

今にして思えば前作にあたる『Daydream』の最後にヒッソリと収められた超個人的かつ内省的な"Looking In"は本作への前兆だったのだと思う。

しかし人気絶頂の歌姫が人気のピーク時に内省的でコアな作品を作りあげるとは誰が予想出来ただろうか。
旦那兼自身のレコード会社社長との別居に踏み切ってまで作り上げた5作目『Butterfly』。

人気(そしてヴォーカルの劣化)という点ではこの作品を境に急激に衰えたが、アーティストという観点から見ればこの作品が自身の音楽性の転換期、いや、出発点と言っても過言では無いと思う。
それまでのMariahは夢見る少女的な要素が強く、カヴァー曲を除く全てが自作曲でありながら「ヴォーカリスト」という側面が強かった。

Mariahの複雑な生い立ちやルーツを知っているファンなら、その歌詞にある程度の説得力を感じたはずだが、それよりも完成されたヴォーカルやテクニックばかりが取り沙汰されたし、聴く側もそういった点に惹きつけられていたと思う。
Mariah自身も個人的な事について曲を書く事が皆無に等しく、殆どの曲のテーマがありふれた恋愛の一喜一憂だった事も大きく関係しているだろうし、何よりもMariah自身の振る舞い、キャラクター、売り方がそういった面を完全に覆い隠していた。

稀に自身の経験を元に作ったと分かる曲もあったが、代表曲"Hero"はヒーロー大好きハッピー・エンド大好きないかにもアメリカ人向けの曲であったし、"Make It Happen"は自身の経験を元にしながらも内省的というよりは自身の経験を元にしたポジティヴ思考全開のいわゆる応援ソングであった。

それが先述した"Looking In"では、自身の過去と現在を客観視し、現在の「私」が過去の自分である「彼女」について語るという、ある意味ポップ・シンガーにあるまじき切り口で耳を惹いた。
ただ、この曲はアルバムの最後に収録されたものの、その前に収録された"Forever"でアルバムが完結したような作品だった為、殆ど気に留められる事は無かったように思う(曲自体も相当地味だ。)。

大分前置きが長くなったが、その"Looking In"を経てアルバム『Butterfly』には個人的な曲が多数収録されている。
その中でもアルバムの最後を飾った"Outside"が全てにおいて凄い。
何しろこの曲のテーマは「疎外感」と「孤独感」。

混血というルーツからくる差別や、どちらにも属しどちらにも属さないという疎外感。
他の人とはどこか違うという幼少の頃から感じてきた違和感が、率直な言葉で詩的に綴られ歌われている。

この曲の中で語られるのは複雑で不安定な感情についてのみで、過去を振り返りながらも現在進行形で続いている現状を前に、答えを見出す事が出来ず混乱している。
その一方、状況を理解し受け入れようとする冷静さや、乗り越えようとする(してきた)がむしゃらな気持ちも見られ、複雑でやり場のない感情に苦しみ続けている。
未だ答えの出ない、これから答えが出るかどうかすら分からないしがらみを歌っている事が非常にリアルで実感に溢れている。

そしてMariahのヴォーカルもそれまでの様な伸びと艶のあるある意味人工的なものでは無く、擦れたようなウィスパー・ヴォイスをメインの声として使いクライマックスではありったけの感情をぶつけるように歌う為、それまでよりも明らかに人間的に聴こえる。
一方で、ヴォーカル・アレンジからはテクニック重視という一面が見られ、もう少し感情を優先した粗めのヴォーカルを使えばもっと説得力が増したという気持ちもあり残念ではある。

ただ、それを差し引いてもそれまでの曲とはハッキリとした違いを感じさせ、元旦那の支配下から逃れこういう曲を歌いたかったのだという意志を感じさせる。
アルバムにはこの曲以外にも"Butterfly""Close My Eyes"等個人的な感情を歌った曲が収録されている。
この作品以降アクセサリやアルバムジャケットに蝶を使うようになった事からも、この作品が本人にとって思い入れのある作品だという事が伺える。

しかし、何度聞いても””And it's hard, And it's hard"から始まるブリッジ・パート以降の盛り上がりはグッとくる。
本人による繊細かつうねるような多重コーラスも圧巻の一言。
  


Posted by dana319 at 17:31Comments(0)Mariah Carey

2010年12月06日

Tori Amos "Sugar"

最も好きなアーティストの一人。

この人が作る曲は癖のある曲が多く好き嫌いは分かれるだろうけど、好きな人はとことん好きでマニアックな人が多い。

そしてこの人は多作なのだ。
約2~3年周期でアルバムを出す。
それだけだと特に多作とは言えないと思うが、アルバムからいくつもシングルをカットし、そこにアルバム未収録曲やライヴ・ヴァージョンを惜しげもなく収録する(特に90年代は凄かった)。

wikipediaを参照するとカップリング曲65曲、サントラ提供曲12曲とある。凄まじい数だ。

ファースト・アルバムにして傑作の『Little Earthquakes』からは5曲のシングルが切られ、カップリングに収録されたアルバム未収録曲は実に15曲(実際にはこれに加えライヴ・ヴァージョンも9曲ある)。

その内の1曲が紹介する"Sugar"。
初出はシングル"China"のカップリングで、今でもライヴの定番曲としてファンの人気も高い。

カップリング曲とは思えない質の高さで初めて聴いた時はまさに「目から鱗」。
オリジナル・ヴァージョンは軽い打ち込みのシンプルなアレンジで、一線を越えそうで越えないで終わる為Tori特有の毒っ気は薄い。

個人的に気に入っているのは99年に発売された『To Venus and Back』に収録された音源(1998年のツアーのサウンド・チェック時の録音との事)。

まるで別曲の様に生まれ変わり迫力のあるTori節が炸裂。
歌詞は相変わらず難解でタイトルでもある"Sugar"が何の比喩なのか不明だが、低音で攻める前半から後半の澄み渡る高音までToriの歌声が冴えまくっている。

そしてTori自身が奏でるピアノの音色も同様に素晴らしい。
この人が弾くピアノは楽器というよりはまるで生き物のようだ。
歌とピアノは別人が歌い演奏しているかのように複雑なのだけれど、実際にはどちらもTori本人の為、その一体感と迫力たるや鬼気迫るものがある。
ピアノと歌をここまで高いレベルでコントロールし感情として鳴らす事が出来る人は稀では無いだろうか。

オリジナル・ヴァージョンとライヴ・ヴァージョンでは、同曲でありながら「静と動」という対極の雰囲気が感じられ、ライヴ・ヴァージョンには「技術と感情」という同じく一見対極にある要素が同居している。
  


Posted by dana319 at 21:14Comments(0)Tori Amos